を自覚し、どこまで自分をそこできたえ得るかというところでしょう。
バルザックは本当に面白いわ。昔トルストイに深く傾倒いたしました、そのころの年齢や何かから、トルストイのモラルが、その強壮な呼吸で、わかりやすい推論で、大いに、プラスになったのでした。けれども、明日の可能はトルストイの中にはないことねえ。妙な表現ですが、トルストイは或意味で、世界に対する声であったでしょう、バルザックは世界に対して一つの存在です。声は、整理され、或る発声により響きます、存在はそのものの存在自身で、その矛盾においてさえ、主張する生活力を示して居ります。わたしは、この頃、この、それが在るということの微妙さというか、意味ふかさを痛切に感じます。或るものが、或る在りようをするということ、そこには何より強いものがあります。ぬくべからざるものがあるわ。そしてそれが人生の底です。歴史の礎です。いかに在るか在ろうとしつつあるか、ありつつあるか。ほかに文句はいらないわ。小説もここのところがギリギリね。小説の文章というものはその意味から云って、一行も「叙述」というような平板なものがあるべきでありません。人間が考え動きしている
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