。「やってみること」何でも。そこで思いついて市次郎という先代からの爺さまの家の渋湯に明日から入れてもらうことにし、三四日うちに元気になって東京へはせ戻り、さて網走りまで出発いたします。わたしは臂力が足りないし疲れているから、つい男をたのんで国男にいくらかは動いてほしいと思うのですが、この人はいつか申し上げたかしら、イギリスの紳士よ。実に泰然たるものです。腹が分らない。ぐるりが動いて来てそこに出た状況で最も自分に有利な方に動くという、粘着力百パーセントの人物です。面白いわね。その国男に、この二月――七月間は私はこまかい収支帳をつくらないでおしとおし「さぞ辛棒だろうけれど御免ね。入金はしれきっているのだしわたしの努力でとにかくもち出した必要品はその幾百倍なんだから」と真平御免を蒙りました。
さて、明日から入る渋湯はたのしみです。「なじょった湯だべ」。どんな湯かしら。「きいたらうれしいけんじょ」きいたらうれしいけれど。けんじょう、という風な力点よ。
太郎は空スーケーホーと申します。それでもこちら生れでないから発音が軽く澄んでいて、土着の人がきくと「ハイカラ」なんですって。そちらは却って標
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