の風呂の底がダメになりました。風呂材として杉の木を截りました。それを乾して風呂やにわたしました。風呂の釜はヤキいもの釜ですって。さかさにしてふくらんだ方を底にして、平和になったらひっくりかえしてイモをやく由(!)そこまで話をきいたのは去年でした。今もってフロのFの字もありません。林町にはボロ石炭があって、幸、風呂にはちょいちょい入り、それでもって居りました。こっちはその有様でうちの男女豪傑は、風呂はこの世にまれなりけり、という貌で笑っているわ。
 この風呂については島田のお母さんも仰天なさったことがあるらしいのよ、昔、信濃町[自注17]へ十日ほどおとまりになったとき。あの優しい咲枝さんがどうして風呂ばかりは立てないかと。ひどい丈夫の皮膚に特別ポンプがついているのかもしれないわ。
 余り体が痛く湯たんぷはないし、ふと考えてさっき太郎に井戸の水を運んでもらってタライに湯をとって脚湯いたしました。すこし循環が整うだろうと思って、案の定、その手当の程度にふさわしい効果はありました。脚はいくらか爽やかとなり、頭脳も活溌になったので、忽然として、この開成山南町なる溜池のガスについて反省いたしました
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