海道、いくら考えても目に浮ぶのは札幌のアカシヤの並木や美しい植物園の緑の風景、父の建てた道庁や大学の姿です。そちらの方はブランクなのよ。本当に変な遠い遠い気もちがいたしました。それから地図を出してよくよく眺め、人にきき、紹介貰いに歩いているうちに、そちらの町もリアリティーをもって来たし自分のゆくこともたしかに納得されて来て、もう大丈夫よ。一人でゆくのが大変ですが、さりとて適当なおともも見つかりませんでしょう。ごく簡単な荷物で、能率的に組合わせて身軽に参りましょう。そう云っても寒いところに行くのだからかさばるわねえ。何年ぶりかで零下何度の冬を迎えるのはたのしみです、そちらのマローズはどんなでしょう、あんなに太陽が照ってキラキラかしら。
 自分のいるところに自分のこころもあるというのはいいこころもちよ。わたしはもう十何年か、東京を体がはなれているときはいつも心ばかりそちらにのこっていて、しんから楽しい旅行などしたことがなかったわ。これからは、そういうことがなくなりましょうし、そこの辺を旅行したにしろ、丁度子供が外を歩いて来てああちゃん牛がいたのよと報告するという工合に、ここはこんななのよ、
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