く世間には自分にこういう才能があるかしら、わたしにやれる丈才能があるかしらと心配したり調べたりしてばかりいる人があるけれども、才能なんて、決してそういうものではない。どんな目に会っても決してやめないでやってゆく勇気が才能だっておっしゃった。本当にそう思うって申しました」というの。成程と思ってね、わたしはいつ、どこでどんな人にどういう話をしたか全然覚えて居りません。しかしそうして覚えていて何かの鼓舞としている人があるということは感動的です。
「でも、その人は自分流に解釈しているのね」とわたしは補足しました。「勇気が即ち才能という風には云えないわ、わたしは多分どんなに苦しくてもその事をやらずにいられなくてついやって行く、そういう内からの力みたいな押えられない力がもしいうならば才能だと思う」と云ったのでしょう。だってね、そうでしょう、勇気とそういう願望とは別よ。願望があるからこそ勇気があるという結果にはなるだろうが「ああそう、そうおっしゃったの、わかるようだわ」「才能なんか本人がとやかく心配しなくていいのよ、あるものならば必ず在って何とか動き出すものだから。知らず知らずよ。その位のものでなけ
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