ると洗います、ゴロゴロになってしまうのよひどくて。頭巾をこしらえようと思いますフードを。一陣の風がふけばその風のまきおこすホコリは髪と皮膚を滅茶滅茶にいたしますから。普通の服装では駄目です目下ゴム長を見つけ中です。わたしがフードをかぶりジャンパーを着(いつもきているの)ゴム長をはいたら、それこそ何かのマスコットのような姿になりますが、ゴム長でもなくてどうしてあの道をそちらへ行けるでしょう。わたしがマスコット姿でそちらへ通うということこそマスコットなのだわ私たちの暮しの、ね。呉々もお大切に、そちらが、狐火のようなものには丈夫なのは安心です。明日おめにかかれるかしら。くすぶってもいない顔を見て頂きましょう。
では
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[自注5]遠方にいて――当時百合子はソヴェト同盟に滞在していた。
[自注6]カジョンヌイ――「役所の」の意。
[自注7]古すぎて駄目でしたって。――監獄で雑誌は一定の時期がすぎると差入れを許さなかった。
[自注8]「菊の花」「根」――中野重治の作品。
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三月十八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
三月十五日
けさは出かけようとして御飯を終ったとたんボーとなってしまいました、森長さんの返事をお待ち兼ねと思いウナで電報出しました、早く御手許に届くでしょうと思って。
きょうは又曇りました、そして少し寒いこと。警報がこうして出っぱなしだと、用足しも遠方には行けないから、午後からもし平安だったら、すこし珍しいひるねということをしようと大いにたのしみです。
七八人もの茨城屋の足音のきつい人々が、夜おそく朝早くとどろとどろとふみ歩いて、もちを焼く匂いを二階までよこして出つ入りつしていると、やはり疲れます、それに、二十五日、四日、十日、とつづけてでしたし、ね、きょうの工合はどうでしょうと思って居ります。きのうは、大洗濯いたしました。焼け出されの躾みとして、ね、洗った襦袢をもっていなくては余りですものね、いろいろ見ているとたしかに、非常の躾というものはあるのよ、女の人なんかは。着たきり雀になる以上、それは堅牢な着るもの、はくものでなくてはいけません。今、来ている瀧川さんという娘が、上っぱりを一枚縫っていてくれます。もんぺも一つこしらえました、それがとりに行きたいのにきょう、これでしょう? 成城というようなところが、こんなにも遠方になります。
三月十八日
けさは、目がさめてから暫く床の中にいて、いかにも土が黒く柔かくなってゆく朝のこころもちでした「春らしい朝ねえ」わたしがそう声をかけると、となりから答えがあります「本当にそうですわねえ」これは瀧川という娘よ。このひとの兄は蔵前で到頭義母(妻の母)と焼死しました。
起きて、朝飯たべて、それから二人で畑ごしらえをしました。この娘さんは畑の畦を切り、わたしは去年の秋からこしらえてあった肥料をかけ、又土をかけ、小松菜やふだん草やを蒔きました。種が余りよくなくて自信ないけれども買いに行っていると、きょうのことにならないから、蒔いてしまいました。この節の野菜なしと来たらお話の外ですから。「この頃のような暮しだと、こわくない半日だの不安のない一時間が実にうれしいわね、玉のようね、だから、そういうとき、本当にたのしいことをしたいと思うのに、ダラダラ儲けた話でつぶれるとくやしいのよ」そんなことを云い乍ら、桜の鉢をいれかえたり、水仙の球根を植えたり、シャボテンに土をかけたりして、殆ど終ったら警報が出ました。
今、午後三時頃。二度目の解除。わたしは、そのたのしい数刻を尊重して小机をかかえこみ、瀧川という子は、わたしの上っぱりを縫いはじめました。風が出て来て、カナリアのチイチイチイ、チチチチチというメロディアスな声を吹きちぎります。
きのうは、朝六時にトラックが来て、春木屋の荷と人とをつんで茨城の田舎へ運びました。ここの家には今おやじと中学二年の弟とがいます。弟はずっとここから京華に通うでしょう、おやじは、東京にうちがなくなったから上京すればここに泊ります。「その代りあっちからお米や何かは運びますから」「その代りと云わなくたっていいさ、もって来てお貰いしなくちゃどうせならないにきまってはいても、ね」
わたしたちが畑をしているとき、細君は椽にかけてつくろいものをしています、息子はムツという犬を抱いてムツが何か食当りしてくにゃくにゃだと云ってしらべています。都会の人って面白いのね、わたしたちは誰かが土いじりしていると、つい誘われて何かしたくなるのに、町の人ってものは、そういう気分が全くないものと見えるのね。
きのうは、六時頃起きて荷出しにガタガタしたから、何となしうんざりして思い切って成城までモンペとりに出かけました。行ってよ
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