して居りましたが、目下のところ人員増加で、ここで一緒に食事しているし、すこしそれはあとになりましょう。ラジオがここにありますから、ここに臥る方がいいのよ、一々二階からおりて来るよりは。
きのう(十日)は一時間半ほどしか眠らないで体がくにゃくにゃだったけれども、御心配だといけないと思って大苦心をして、田端まで歩いて行きましたところそちらもお休みでした。帰りは、池袋が余りの人で危険ですから大塚まで歩き又田端へ下りたら丁度一機来て、あすこの辺からうちの辺鬼門故首をすくめて歩いていたら何事もなく帰りました、そしたら解除。
きょうは、久しぶりにしずかな日曜日で(二十五日も四日も日曜よ)今、その連中も焼跡片づけに出て居りますしうちは一人でこれを書いて居ります。あの足袋は、たしかに傑作の一つね。材料が全く優秀なのですもの。あれが出来たときには全くうれしく何しろ生れてはじめての作品ですから、我ながらほれぼれと眺めました。同じ色の布で自分の分も裁ってございます。が、まだ縫わず、よ。足袋と下駄の鼻緒とはどうしても自分で縫う必要がおこって居ります。しかしこうして男のやる仕事(家具や荷物)も自分でやらなくてはならないから、ほっと一休みしたとき、わたしはどうしても足袋をとりあげにくいわ。本をよみたい心が押えられないし其があたり前と思うのよ。ですから、自分で縫ったものの必要切迫ながら、只今までのところあなた丈です、ああいう足袋はいていらっしゃるのは。反対にわたしはあなたのお下りよ。大量の生産品が、自家製より優秀になってこそ、です、本当におっしゃるとおりと思います、それと同時に通信販売の信用が増すということも、ね。カジョンヌイ[自注6]という言葉が、笑い話の種になっている段階は克服されなくてはなりません。
『国民食糧』お役に立ってようございました。言っていらした雑誌ね、あんなに苦心して(ここまで書いたら、静からしかった空にサイレンが鳴り出しました。)集めましたが古すぎて駄目でしたって。[自注7]残念ね。
きょうは十二日(月)ひどい風が納って安心です。風は大きらいよ、昔から嫌だったのが、この頃は猶更。
昨夜目白の先生が見舞に見えて、もしここが駄目になったら、目白へ行くということにきめました、何しろ焼け出されの人々を、御勝手に、とも云えませんし。そして清瀬の方に、もしかしたら部屋を見つけて貰えるかもしれない話でした。開成山開成山と思っていたってどういう風になるかしれませんから、やはり歩いて行けるところに一つ予備のある方がようございましょう。
やけて来ている人の中に中学一年生がいてね、犬や小鳥がすきで、焼跡の始末から帰って来ると仔犬を抱いたりカナリアを見たりしているの。太郎は田舎で御飯たきをいたしますって。太郎の一生のために何にも代えられない仕合せです。犬好きの少年も太郎も可愛いと思います。十日に行ったときパール・バックの支那の空と支那短篇集『春桃』をおいて参りました。『春桃』は面白い集でした。氷瑩女史の「うつしゑ」という作品なんかも、パール・バックが描いている現実のこっち側から書いているという風なところがあって、やっぱり本国人の作品というあらそわれない味があります。アンデルセン風の話を書いている作家は大変心情的ねガルシンが思い出されるように。日本のああいう種類の作品にあの程度のものはないと思いました。「菊の花」「根」[自注8]などはましな作品でしたが小規模であったしモティーヴが、独語的(よい意味にも)でした、中国文学研究会の仕事としては有意義であったのにああいうのが続けて出なかったのは残念です。きっと興味ふかくお思いになりましょう。近頃心ひかれた作品集です。目白の先生にたのんであった本も、もち主が東京にいなくなっていたりしてなかなか手に入らぬ由、あのお手紙にあった以外の本でもよかったらとにかく貸してもらうとのことでそのようにたのんでおきました。辛い点なんかといつも思っているのではないのよ。時々丁度腕がくたびれたとき急に持ちものの持ち重りがするように、あれこれのことが畳って自分が疲れたりその結果ダラダラになったりつまりこっちが弱いモメントに御註文のテンポの重みがこたえるというわけでしょう。しかし実際問題として南江堂もなくなったし本を見つける困難は言葉につくせなくなりました。『春桃』も金沢市の古本屋から上京した本でした、そういう紙が貼ってあったのよ。昨夜瀧川という夏頃手伝っていた娘が、会いたくて思い切って福島から来ました。わたしは大助りよ、いろいろ手伝って貰えるから。きょうもあっちこっちの見舞に一緒に歩いて貰いました、何だか別のようになってしまった街々のやけたところを一人で歩く気がしなくて。この春は眼をよほど大切にしないと焼け埃で大変です。ホーサンでかえ
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