達している世界的水準を明瞭に押し出して、日本文学と同じにアメリカ、中国、ソの文学、イギリス、フランスの文学を観察し得るという能力を示さなくてはならないと思います。そういう機能を高めることは、日本の発展のために重要です。アメリカは「日本がデモクラシーを理解する迄」と事毎に申します。これは興味あることね、即ち日本はアメリカが今日包蔵しているデモクラシーのキリキリ迄民主的であっていいわけなのだし、そうしなければ日本の屈伏は無制限だし。
文学に専心するいい雑誌をどこが出すでしょうね。金儲けでない。そして執筆する人々もジャーナリスティックでない勉強家であるというような。しかし内容も執筆範囲もひろく、執筆者の経済面も市価を保つことが、只今のような生活事情のときは必要ね。C社、Iなんかという人のぐるりは、ああいう「食いたい連」がワヤワヤだからきっとあれこれ「文化的計画」があるのでしょう。「文化」という言葉が再登場しはじめました。其は厳密に扱われて、再登場の喜劇を演じてはならない立場に置かれていると思います。
日本文学史が世界的見地から書かれ、其ままホンヤクされれば、世界の知識人に会得され得るようなものの出ることも大切です。フランス文学にしろ堀口大学のような「専門家」は不用です。追随者は必要でありません。すべて前進させ得る見識が必要です。
わたしは本当に勉強したいのよ。眼がこんなに弱ってしまったのが何と残念でしょう。しかし夜早くねて早くおき仕事せざるを得ないのは却っていいかもしれないわね。てっちゃんにも文学上のあれこれの希望ははなしました。わたしの書きたい小説はまあそろそろと、ね。
旅行は、どっちを向いても極端に困難です。けれども、もしこの月半ばまで待ってみて、どうしてもそちらへ行く手筈がつかなければ(青函連絡は一艘でやっている由)忙しくなる前に、こちらから島田へ一寸でもお見舞に行って来てしまおうかと思いはじめました。
達ちゃんの安否についてまだ御返事頂きません。丸山定夫一行十七名の移動劇団が広島の福やデパートに泊っていて、全滅いたしました。福やはわたしも知って居ります、あすこから電車で護国神社まで行った覚もあります。目下のところ一番気になるのは達ちゃんのことですから、どういう形にしろ忙しくなる迄に島田へ行くのも一つの方法と考えます。あちらに住むのは不便でしょう。子供二人にお母さん友ちゃんとわたしという組合わせでは、女である私はここにいると同様になってしまうでしょう。最悪の場合を考えても、やはり私はあちらに住まず、仕事を自由にたっぷりして、その結果で出来る丈お力になるのが一番よい方法と思います。岩本さんの娘が来ているらしいのね、文子というのはその娘さんのことなのね。そういう人がいれば猶更わたしは、あちらにいる間は若い女教師の常識で納得出来る暮しぶりでなくてはならず、それは定評をつくり、つまりお母さんのお気持に及ぼしますから(それに岩本家というところの風があなかしこだから)。途中東京へ一寸よって見てもいいかと思います。てっちゃんなんかに。(仙台からおくさん子供よびもどしたい由)そうするともう十月ね。わたしの心配は、郡山、青森、函館というようなところはいずれ進駐地でしょうから、その時はまた交通途絶いたします、よほどうまく取計らわないと今年一杯、それ又ふさがったで過してしまいそうで、あぶなかしくてたまりません。だから、どうぞして本月半ばまでにそちらに行けるようにしたいの。それにしても、あなたは何と僅かの間をお動きになったことでしょうね。
そして、郡山が進駐地となり、その場所はどこだか、其によっては出入りがずっと面倒くさくなりましょう。双方で馴れる迄ひどく慎重らしいから、一定の地域の通交[#「交」に「ママ」の注記]人の身体ケンサしているらしい風です(ラジオでの話)(横浜など)わたしはどうしても忙しくなり、動きも多くなりましょうから、そういう場合は不便でしょうと思います。東京なら広うございますけれどもね。
七月には三日に手紙かいて下さいました。きょうは三日ね。やはりそちらもこんな秋晴れでしょうか。そして手紙書いて下さったのかしら? こちらもこの一週間ほどは夜冷えてすこし厚いかけものを出しました。今、もって行く薄どてらを縫って貰って居ります、夕方なんか羽織がいるのではないでしょうか。海はどんな色でしょう。二、八月というから九月の海は荒いのでしょうね、濤の音が聴えるでしょうか。風の音が二百十日後は変りました、乾いた音がきこえはじめました。
竹越三叉の『二千五百年史』の四十二年版が焼けのこりの古本やにあってもって来ました。箕作元八が西洋史を扱ったのに似た方法ですね。文章が文語ですが弾力にとんでいて、やはり箕作の談論に似て居ります。三叉という人
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