せました。本当に熱帯と寒帯と、思えば整備員の不熟練、質の低さは決定的なものです。
 今年は、お着になるものなど、怪腕をふるって、われ乍らびっくりものです。わたしは地道な人間で怪腕はよかれあしかれもち合わせないのですが、事一度裁縫に関すると、振う腕ごとに怪腕になるのだから凄じいわね。技術を習得しても怪腕に変化はいたしますまい、それはどうぞ御含み下さい。そういうことの器用人は又別でね、わたしのは、必要を極めてがんばって主張したという風な裁縫なのよ、あなたの針仕事を女性化したという程度ね、おそらく。でも、幸、わたしは、台所はしませんでした、何はしませんでしたというような消極人でないから、おそろしい綿入れだって何とか征服いたします、あなたとしては、時おくれやとんまや、その面だけがお気づきでしょうし、其は実もって尤もですが、わたしの昨今の諸事業征服は、そうそうすてたものでもないのよ、公平にみれば。気力でやりとげる的縫物でさえするのですもの(!)
 最近材料をそろえて、鷺の宮へ行って足袋縫いをいたします、ついでにお風呂に入って、国男がいるから泊って来ます。昼間風呂をわかさせてはすまないし、夕方入れば帰るのが困るし。今市電十時で終りですから。
 国男たちがゆっくり眠って休むように、と開成山へ誘います。たしかにねまきになって髪もほどいて眠って見たいわ、けれども、この一ヵ月ゴタゴタつづきで、やっと寿が帰ったと思うと国で、わたしはおちおちした自分の時間がありませんでした。一人でいたいの、実に一人でいたいのよ。本をよみ、手紙もかき、そちらでは覚えていたことをいつか忘れるような毎日でない毎日が送りたいのです。一週間、仮にのんびり眠ったとしても、食べて眠るだけに、安らかさはあるのでないから、わたしは矢張り参りません。子供たちは見たいけれども、キャーキャーワーワーで、気が安らかでないと思います。本やとの話が気にかかって居りますからね。わたし一人ならここで何とかして昼間休むことも出来るのだし。「わたしども」の暮しぶりをチャンとやれるのが、一番いいし結果的には其が休養となります、あっちこっするのは少くとも私には却って不安をまします。
 やっと人が来たのに、自分がガタクリ動いては何の甲斐もありませんものね。国は十日かおそくとも十五日いて帰る由です。あのひとも、そうやっていますが、徴用のことがあるから
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