妙なところに穴がポッカリあいてしまったわ。
歯医者へゆくとわたしは全くいじらしくおとなしいのよ。眼医者へゆくとしおらしく不安なのよ。歯医者は、肴町の近くのところへゆきます。メタボリンが岩本さんにも手に入らなくなっている由、「万難を排して」買って下さる由、県視学となって下関へゆくそうです、頂上の立身でしょう。下関とは、しかしこわいところね。お祝いを云ってあげなくては、ね。豚娘(!)さんが赤ちゃん生んだそうです。女の子をこう謙遜して云われると笑い出してしまいます、西郷南洲を見込んで好いた女は豚姫といったのですって。
四月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
四月十六日
ね、二人遊びは面白いでしょう、きょう一日あなたは私のするいろんな細々したことのお伴で、夜床に入らなければ放免にしてあげないという工夫です。
さて、さっき始めの封をしていたら、庭の方からカーキ色服の男の子が現れて、「魚やの配給です」「ああそう、どうもありがとう」「僕とって来ましょうか」「ありがとう。でもきょうは居りますから自分で行きます。」この男の子は裏の洋画家の長男です。父なる画伯は縁側に坐って
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