上らないわけだったのです。田舎へなんかは、ね。国男さんは、東京の郊外なんか意味ない、自分は開成山へ行っちゃう、と云って居りましたから。これからの生活は大したものですから、新しくわたし一人でどこかで生活こしらえることなんか迚も無理です。疎開者向ねだんが発生するのは世界共通らしくて。食糧の問題も極めて深刻です。〔中略〕「風に散りぬ」の中の一八六三年頃、あれね。
 国も家のことについての考えは、グラグラして居ります。フランクに話さない自分の都合[#「都合」に傍点]があったり、心ひそかに描く計画があったりなのでしょうね。ですからアイマイです。わたしがいなくては、自分も困るような話してみたり、わたしはさっさと自分で疎開すべきで、僕はどうにでもやるサ、と云うことになったり。そのどうにでもやるサの内容がタンゲイすべからずでね。だからああそうかと安心しきらないのよ。〔中略〕
 きょうは十八日になりました。暑いことね、しかし風がいくらか通るのでしのげます。そちらいかがでしょうか。おなかの工合はすこしいいでしょうかしら。この間珍しくカンカンにかかって計ってみたら十七貫八百(きもの、下駄ごと)ありました。一
前へ 次へ
全357ページ中178ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング