来たてのところで一服というところを、こうして書きだしました。全く、いまこそ煙草のむべき[#「のむべき」に傍点]ところよ。三日に来て例のとおり大騒動いたしましたが、今度はね、その眼の下で芸当を演じたことが計らず曝露して、しんからいやになりはてながら、慎重にかまえ、例の身勝手鈍感の方はそれと気づかず、つまらなく文句云ったり、亭主風をふかせ、それをきいているあいての心は百里もあっちにあって、大したことでした。寿の引越しのときもわたしはここに居りません。実の妹が皆と一緒に食事もしないで、引越しさわぎをしなければならないのを私が見て黙って居られません。しかし、もし七月に入り咲が来られなければ、国に開成山へでも行って貰ってわたしが手つだいましょう。
おっしゃっていた本、宮川何とかいう人のは、厖大なばかりでインチキ本の由、間違いも少くない由です。『結核の本質』という病理と細菌の専門家の書いた本でよむべきのがあるそうで、入手次第お送りいたしましょう。あの御愛読の『結核』教養文庫、あれは名著だそうです。あんな姿をしていて名著だというところに、何とも云えないいいところがありますね。
きょうは、今迷って
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