するなんて、わたしとしたらほとんど大人になってからはじめてで、そのとき国男さんが一緒だなんて。何てにくらしいんだろ。肝心の旦那さまに、わたしは一口だって、こんな気分でたいた御飯をたべさせることがなかったのよ。畏れつつしんで、しかるべしよ」と。「だから定期進呈したじゃないの。」そうなのよ、市電が一系統十銭ずつになり、往復四十銭かかることになりました。定期だと、いくらかよいのよ、それを買ってくれたというわけ、団子坂―池袋。れっきとした勤め人ですものね、わたしだって。うちでは出勤といえばそちらと合点しているのよ。
それから前の交番が廃止になって空屋となりました。前の通りはそのために夜不安心なところとなって、おそくなると一人で歩くとこわいわ。ちょいと横に入ったところにはバカが出たのだから。きっといまに大通りまでのしてくるでしょう。
うちでは門をしめておくことにしました。そしたら早速となりの万年筆工場でも門をこしらえたわ。同じことを考えるのですね。うちの門は、よごれたりと云えども白い格子の低い門ですから、今はそこを透して狭いところの左右の緑やバラのアーチが見えて、この通りでは一番人間らしい感
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