時から、私たちきりだったのですが、六時すぎまで歯医者のところで握った掌に汗をかいて来たのよ。夕方の街を歩いて、いつもの古本や見ます、歯をがりがりやった気持があまり閉口だから。きょうは、リルケの果樹園という詩集と、レンズのツアイスね、あれのガラス工業の完成に着手したルネッサンス頃の祖先の歴史をかいた小説見つけました。お金が足りなかったから、月曜日、歯医者のときとることにしました。お読みになれそうなものです。そういえば、活字のグーテンベルクの伝はまだおよみになって居りませんね、一度よんでよいものです。
そして家へかえると、犬が躍り上って歓迎します。躍り上る犬は女の子だのにさっぱりとして快活で男の子めいていて気に入って居ります。その次の仔が出来てね、その仔ったら又真黒と真茶のコロコロの本当の犬っころです。まだ縁の下にいて、さっき北の中庭の木戸の中にいるのを呼んだら、熊がウンとかワンとかいっていそいで引こんでゆきました。その丸さったらないの、全く今時、こんな仔犬は珍しいわ。きのうだったか、さすがの主人公が小さい声して姉さん一寸、一寸と手招きするから行ったら、可愛いよって。そういう位可愛いのよ
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