もう伝説の時代が人類の生活から去っていて、泉から白衣の仙女が立ちのぼり、狩人をうっとりとその泉まで誘いよせて、その縁にひざをつかせることもなくなっているのを、葉かげの泉は歎息しました。
 一枝か二枝の八重桜の下で、この物語をどんなにお味わいになるでしょうか。讚美歌の中に、渇いた鹿が谷間に水を求める姿をうたった調子の高いのがあって、すきでした。シムボリックに求神を云っているのでしょうが、雅歌が極めて感覚に生々としているように、この歌もほんとうに生きるものが水を求める渇き求めを歌っているようでした。渇望という字は、人間の率直な表現ね。しかしそれを純粋に感覚する大人は少いし、それをまともに追う人も少いのは不思議です。そして、おどろくべきことは、気力を失った精神には渇望が決してないということ、ね。
 今何時? マア、もう七時半よ。かき出したのは六時よ。きょうは又うんとこさ早くお眠りブー子をやります、そして、あした気持よく歯イシャを辛棒し、野菜袋をブラ下げ、そして、いいこと思いつきました。あさって、もしかしたら、朝のうちに駒込病院へ行って、外科の先生に紹介してもらって、いつか多賀ちゃんが、ラジウ
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