いろいろの絵をかきます。その仕事ぶりは笑えないわ、そうやって描いて一家六人をやしなっているのです。
 前のポストへ手紙を入れ、これを(十七日)けさ又受けとったのよ、七銭不足の由で。三銭四銭と恥しいほど長くはりつけることになりました。前かけかけたなり目白でやっていたようにカゴを下げて犬をつれて団子坂下を一寸むこうに突切った魚やへ行きました。魚やは初めてよ。三人で冷凍のタラ三切。三十銭也。となりの文具やへよったら封筒らしいものは一つもなし。坂を又のぼって下駄やへよったら隣組配給になるのですって。九日から二十五日までにさばいて警察に届けるのですって。下駄やの斜向うに菊そばがあります。ゆうべかえりにそこ丈明るくて男や女がワヤワヤ云っていたの、何かと思ったが、見ると今晩軒という札が出ていて午前十一時より千五百人売切れとあります。ホーレン草の束を運びこんでいます、「今晩軒て何が出来たんでしょう」「雑炊です」「まあ菊そばが今晩軒になったの」「いいえ、代が変って菊そばは引こしちゃったんです」あの下の方のところには土間に板の床几が並んで居ります、ホーレン草の入った雑炊売るのね。附近の人は大助りでしょう。外食券なしで買えるし、食べさせるのですから。いずれはうちも十一時までだから十時半などと云って団子坂の上まで列に立ったりするのでしょう。
 魚やから戻って、これから一寸することがあるの。小遣帳の整理です。小遣帳たるや、この私に[#「この私に」に傍点]二冊もあるのよ台所用。自分用。この頃は、出たところ勝負で買っておきたいものがありますから。そしてこれは、こんなものいるのかというようなもので。例えばね、この間、そこの帰りテープ買ったのよ、ゴムの。下着用の必需品。これが立売りしかありません。細いの一尺五十銭、やや太いの七十銭。六尺五寸ずつ(たった二組ずつのためです)それが七円八十銭かでしょう? これですもの。
 立売りは面白い現象です、アホートヌイ・リャード[自注8]に一杯立売りが並んでいてね、塩づけ胡瓜、卵、キャベジ、肉、殆ど何でも売って居りました。胡瓜なんかの価をきくときはパ・チョム? の方を使って、スコーリコとはきかないのね、スコーリコはもっとまとまったもので、百グラム何銭にいくらというような食品なんかみんなパ・チョムでした。それが一九二九年の十二月、西からかえったら[自注9]、一人もい
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