さ。「あぶら」の火の珍しいキラキラした明るさ。しかしその光の輪はせまく、集う人々の影を大きく不確かに動かし映るなかで、蘰のさ百合の匂やかな大きい白さが、男のひとの額の上に目立つ暗[#「暗」に「ママ」の注記]暗の美しさ。うれしさが明暗のアクセントのうちに響いて居ります。蘰は女のひとがおくるものだったと思うけれども。
「笑まはしきかも」に愉悦が響いて居ります、様々のやさしい情がこめられて。
 第二巻はまだよんで居りません。三つのうたは初めてで、古歌と思えぬ瑞々しさです。うたを覚えられない私でも、この三つともう一つの「幾日かけ」は忘れますまいと思います。この十三日のお手紙は十五日のと一緒に、十九日についたのでした。
 体のこと、確に営養のこともありますけれども、この頃はいい方よ。(食べるもののこと)生活のプリンシプルが、いろいろためてしまっておく趣味でなく、食べものは食べられるとき食べる、というたて前でわたしはやりますから、それこそ、今のまさかにゆるがせしないから割合ようございます。わたしが知らないで、しまわれているまま腐ったりしているものがありませんから。その意味でこれからは今としては最上[#「今としては最上」に傍点]というところでやれそうに思って居ります。魚や肉は配給以外うちは暗いものなしですからきまっているが。小松菜でもまきます、樹のかげというけれども日向のここへ一うね、あすこへ一うねと、パラリ、パラリとうなえばいいのだわ、ねえ、何も四角いものつくらずと。わたしがいろいろやるときっとすこしは動きが出るでしょう。ものにも気分にも。小松菜も蒔こうという気になったのだから、余程丈夫になったわけでしょう、ひとりでに動くのね、そうやって。
 岩波文庫の『名将言行録』は渡辺町へでもたのみましょう。文庫は殆ど市中へ出ず売切れます、ましてや今度「不急出版物一時停止」ということになりましたから。紙を最も功利的に使う本やの工夫で美術や専門技術の高い本が出たのがついこの頃の現象でしたが。この四年ほどのうちに出版もひどく波瀾いたしました。インフレーションと云われ、I・Tが財産こしらえたころから。戸塚が生活を破綻させ些か新潮に儲けさせた段階、その次の十五銭本か小説か分らない作品集の出た時代、それから美術、技術本、そして只今。
 今は人々が、ひと通りの気のよさ、親切、教養などの底をどしどし抜か
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