、時は遅くても且つ迅い、ということを痛感いたします。生活のテンポが時間という鞘から抜けて走ります。新型ドン・キホーテとはうまい表現ですね。この春をうまく合理的にすごしたらきっと丈夫さが増しましょう、しかし眼はよほどゆっくり思っていなくては。島田へ行ったらうんと早ねして、午前中起きていとうございます。
十三日の誕生日は、鷺の宮へ行ってすごします。泊らず。あなたのお祝いは何を頂きましょうね。ビオスボン届いて? あれでもボンというからにはボンボンなのね。そう思って、とどけました。わたしのボンボンは本当にまがいなしの Bon! Bon! で、あれは不思議なボンボンよ、みると。こっちの体じゅうが惹きこまれてしまって。十三日には、心祝いに、読み初めをいたします、第二巻から。又はじめに戻ると、こわれた時計みたいにグルリグルリ針があと戻りしてきりがないから。島田では文学のつづきよみます、あれこれ。冨美子が三月に卒業いたします、お祝いになる本さえなくて大弱りです、勝の初めての端午よ、子供たちも其々存在をとなえておもしろいしおばちゃん大抵でなし、では又。
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[自注2]川越の先の部屋――荷物疎開のためにさがしていた部屋。
[自注3]大岡山の室――百合子の妹寿江子は大岡山に間借りした。
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二月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
二月十三日
きょうの暖かかったこと! そちらもでしたろう。おだやかな日でした。わたしはきょうずっと家にいて、おかしい暮しかたしたのよ。鷺の宮で甥の婚礼で行けなくなったのが却って幸。というのは寿の大岡山の室へ明朝荷を送るについて、きのうは目白来の荷物をあけたら、すっかり鼠が紙をたべていて、せとものはそのままですが、すっかり煮沸しなくては用に立たずというわけ。疲れたからきょうは行かなくて大よろこび。大体きのうガタガタしたから、きょうはかねてたのしみにしている読書いよいよはじめようと、はりきりで心あたりを見たのに、どうしてもなし。これでは折角の十三日だって要するに無意味だと思って悄気《しょげ》て、島田から頂いたアンモをたべていたら、咲が私の古原稿入れてある行李が欲しいというので、其ではと勇気づいて二人で働いて、二人のすべての希望がみたされ、本当に、本当にいい気持となりました。これで十三日らしくな
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