た。ザル下げて月の光にてらされて、地べたに丸き影うつし。サバ二切(二人)。第二次夕飯のおかずが出来てよかったけれど。この間うち曇ってさむかったのが久しぶりで夏めいて月もいいので、白い浴衣の人かげが一杯出ていて、賑やかで、子供ははしゃいでサバとりの行進と思えない賑やかさでした。面白うございました。
こっちのうちはどうするか分りません。けれどもわたしは行ききりにならないとしても早く動きます。そちら迄二時間かかるでしょう。新宿をどうしても通るのが、いやですが、どこからだって、何か門があるのですものね。
あっちは紀という従弟が、いいよと云っていましたが迚もないと思っていたの、家なんか勿論ないのよ、ね。でもわたしは、あっさり食べ、勉強出来る生活ならその上のことは申しません、この時代の中で。
経済的には忽ち大口くい込みとなりますが、そのときは又そのときのこととして、ともかく仕事出来なくてはその点も私としての本来的解決の方法が立ちません、自分として握っていてかけ合うものがなくては、ね。ですから先ず仕事をはじめる次第です。一冊ずつの計画でかいて行きます、作家論にしろ、文学史にしろ小説にしろ、ね。一冊ずつを一まとめとしてのプランで。仕事が出来ればおのずと途も拓けると信じます、出版者も近視ばかりでないでしょうし。出版不能が、個々人の事情でなくなって来ているのが、却って面白い点です。人間もおもしろい気があって、どんなに低下したって出ないとなれば、それならと反転して、視点を高めるところもあったりしてね。世田谷区成城町四二三五泉方というのよ。電話はキヌタ、四〇八。豪徳寺から三つ目ぐらい? おうたというのは大畑うたというので、何でも毛利家のどの分家かに八九年いて、老女が辛くて出た女です、縫物もしてくれるから大助り。どうして御亭主もたなかったのかしら。所謂婚期を逸したのかしら。ごく一般的な働きもので、早口のひとよ、丸めの小柄で。
室の都合は何しろ先客が、貸す室(一番いい座敷)つかっているので、わたしはあっちこっちとなりそうですが、その方が、とじこもりでなくて楽です。昼間殆ど一人よきっと。二人は出るし、そのおうた女史が、附近の家庭の手伝に出て稼いでいるのだって。そういうの、さっぱりしていていっそいいでしょう。へんにからみつかれてさしむかいでは息をついてしまいますものね。洋風の応接間とかがあ
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