来たてのところで一服というところを、こうして書きだしました。全く、いまこそ煙草のむべき[#「のむべき」に傍点]ところよ。三日に来て例のとおり大騒動いたしましたが、今度はね、その眼の下で芸当を演じたことが計らず曝露して、しんからいやになりはてながら、慎重にかまえ、例の身勝手鈍感の方はそれと気づかず、つまらなく文句云ったり、亭主風をふかせ、それをきいているあいての心は百里もあっちにあって、大したことでした。寿の引越しのときもわたしはここに居りません。実の妹が皆と一緒に食事もしないで、引越しさわぎをしなければならないのを私が見て黙って居られません。しかし、もし七月に入り咲が来られなければ、国に開成山へでも行って貰ってわたしが手つだいましょう。
おっしゃっていた本、宮川何とかいう人のは、厖大なばかりでインチキ本の由、間違いも少くない由です。『結核の本質』という病理と細菌の専門家の書いた本でよむべきのがあるそうで、入手次第お送りいたしましょう。あの御愛読の『結核』教養文庫、あれは名著だそうです。あんな姿をしていて名著だというところに、何とも云えないいいところがありますね。
きょうは、今迷っているところなの。きょうのうちに外出して、果しておいた方がよい用事が二つばかりあります、あした午後はお客でつぶれてしまうから。だが、朝早くから大さわぎして、お握りこしらえて出してほっとしたところだもんで、あついし、出かけるのも何となし進みません。もとだと、夜平気だったし、心持よかったけれども、今、夜はこわいし。どうしましょうね。行った方がいい? なまけてしまって、あした? でも困るわね、あしたなんて。くさってしまうものがあるのだから。くさらないうちに届けなけりゃいけないのよ。あああ、チン(犬)がもうすこし馬琴風の神通力をもっていて、首からザルでも下げて用足ししてくれるといいのだけれど。八犬伝とまでは行かなくて結構ですから。
きのうは、毛のものと、どてら荷作りしてどうやら出しました。先ず一安心。もう二つほど送れるといいのです。この間、一日のうちに大体毛のものの洗濯終ったら本当に疲れました。お湯をマキでわかして、運んでは足し、洗っては運び、黙ってウムウムと働いて、きのうあたり本当にグロッキーでした。きょうもまだ十分と行かず。ここいらで一日二日ゆっくり横になりたくなって来て居ります。
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