たちなのね、誰にしろそうですが。仔犬めいて夕飯すますと眠たくなったりするのも暫くはいいのかもしれません。又々丸みを帯びはじめ、自分で自分の体の愛嬌を感じるとうれしいわ。何となしぱっちりしなくてグタグタしているのは腕一本眺めても感服いたしません。ころころでも閉口ですが。現今の生活で、そうなりっこありません。丸く短き腕をふり、というのが関の山でしょう。
 御飯後には、小包すこし拵えるのですが、どの位やれるでしょうね、そういえば今夜の御飯のおかずは何にしましょうね。ああ、おなかが鳴って来た、では御飯、おそい昼めしとなりました。
 御飯すまして一寸台所始末したら、もうあとは一時間ほどしか自分の時間がなくなりました。
 ひどい音がして飛行機がとびます。出てみたら美しい形で雁行して居ります。低いところに雲があるので、見えつかくれつしながら。形の静かな優美さも、こんなに空気をかきさいて動いてゆくのね。昔の歌人は、人間の営みのいとまなさを、やすむ間もなき鴨の水かきとよみました。悠々浮いているようでも、と。
 今台所用本は、ナポレオンの母の伝記です。レテッツィアというひと。いつか書きましたろう? 一種の女丈夫だって。いつお前たちの必要がおこるかもしれませんよ。他人のパンを乞うよりは、私のお金の方が使いよかろう、と皇帝の見栄坊に一矢酬いたという。この伝記者は、もう少し突こんでかくべきマレンゴのことやブリューメルについて大変、おっかさんの側からだけ、彼女の知っている範囲でかいていてその点つまりませんが、コルシカという島の十八世紀末におけるむずかしい立場、島内のありさま等よく分ります。箕作元八のナポレオン伝は傑作で辛辣でもあります。ナポレオンが不肖の弟たちを王にして自身を危くした愚かさを云って居り、本当と思いましたが、そこにコルシカの伝統(族長家族)があり、大家族の首としてのナポレオンの兄貴としてのやりかたがあったのですね。支那みたいに、一人が出世するとズルズルとたぐったのね、十八世紀のイタリーもそうだったそうですが。(この時代のイタリーは私生子全盛時代であった由、(カテリーヌ・メディチの親父等)ナポレオンが失脚後ボナパルトと云われ、スタンダールが憤った扱いをフランス人がしたのは、どうしてもコルシカの[#「コルシカの」に傍点]というところが、フランス人の考えからぬけなかったこともあるのでし
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