づきになるために、先ず、おっかさん姉さんの揃っているときすっかり指さきや着物の裾なめさせて、匂いよくつけてその仔にさわったら、すっかり安心して(家族一同)至って好成績。きょうは呼ぶと、小指ほどの黒いしっぽをふってかけつけて来ます。わたしは犬がすきね。とりあえず、コロコロと呼びます。ころころなんですもの。
おや、内玄関へ誰か来ました。中條さーん。電報よ。アス九ジタツムカエタノムサキエ。あす[#「あす」に傍点]というのは、いつでしょう。もとのように電報のつく時間というものが、はっきりしていれバ、こんな心配いたしませんが、近頃は途方もないから、アスと云ったって、きょうかとあわてる次第です。丸の内へ電話し、駒込へ電話し、つまりあしたなのだとあきらめました、局では控えおかないんですって。
さて、きょうは仔犬遊びしてから、たまっていた手紙どっさり書きました。そしてこれも書き出しました。外へ出ないときめた日は、何といい心持でしょう、わたしは毎日出るというのがごくにがてです。
何だか、すこし日ざしがかげって、楓の樹の幹が黒ずんで見えて来ました。夕立っぽいのかしら。よく見て、ふとんとりこまなくてはいけないかもしれないわ。一寸待って。
ね、やっぱり。面妖な雲が東の空、西の空に現れました。ふとん干して降られたら眼も当てられず。いそいでとり込むなんて出来ないんですもの、重くて、大きくて、おまけに高いところにかけるから。
こうしてしまってしまえば安心よ。あなたのところへ、冨美ちゃんの可憐な二十円也と達ちゃんたちの写真をお送りするこしらえをいたしました。この写真に、お母さんが入っていらっしゃいません、私たちはお母さんも見たいことね。
咲は月一杯はいるつもりでしょう。家片づけや月番やをやり乍ら。達ちゃん上京するなら、家が余り狭く暮すようにならないうち、そして咲がいて、国のお守り出来て、わたしと達ちゃんが、すこし留守しても結構というときがいいと思って、手紙出しました。くり合わせがつくかどうでしょうか。
こうして、腕ニュッと出るキモノ着ていると、み[#「み」に傍点]が入って光沢もよくなって来たのが分って、うれしいと思います。きのうだったか、紀という従弟が来て音声が響きがちがって来たと云ってくれました。この間迄は、病人ぽかったって。わたしは或ところ迄丈夫になると、闊達に暮すのが療法になる
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