宛 駒込林町より(封書)〕

 五月十六日
 きょうは、五十七度ほど。これだから体がたまりませんね、けさ午前五時半の一番で太郎がコウヅへ行くというので起きて世話をやいたら風邪をひき気味になって、雨のふるしずかな私一人のうちの中で殆ど一日床に居りました。今もう夕方。おきて暖い襦袢にエリをかけて着ていたら、健之助の乳母にたのんだ人の乳が健全でのましてよいと医者からデンワで、それ知らせろということになったら、あっちのとりつぎ電話が不明でゴタついているところです。
 父さんは大抵金曜日の夕方になると何か用が出来て、どうしてもあちらへ行かなければならなくなるのよ。太郎は土曜から出かけて二人が月曜日の一番で夜明けに起きてかえって来ます。
 其故この頃の日曜は本当にドンタクなの、しずかで。気づかいもいらないし、ケンカする人たちはめいめいちりぢりだし。そして私は面白い、又いじらしいものだと思って、せっせとリュックを背負って母さんのところへ出かけて行く父親の心持や又それとは別に息子のことを考えたりして暮します。アメリカにシートンという動物観察者が居ましょう、いろいろな動物の生活をよく見ていて、時にはバル
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