もにはじめて生命にあふれて表現されるのですから。その純潔な輝やかしさは、露のきらめきさながらね。
露のきらめきと云えば、前の手紙で、詩を見つけたことお話しいたしましたね。「わが園は」という題の作品なのよ。どちらかというと風変りなテーマです。ほんとはそれを書こうと思ったのに、つい、いづみ子の噂を先にしてしまったらもう七枚にもなりました。つづけて、然し、別の一通として書きましょう。好ちゃんのたよりはお目にかかって伺います、今あなたは手紙をお書けになれませんものね。呉々も体の動かしかたに御用心を。
八月二十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
八月二十七日
前ぶれの長かった「わが園は」の話いたします。テーマはいくらか風変りで、支那の詩にでもありそうな情趣です。
人気ない大きい屋敷の夏の午後です。しげり合った樹木の若葉は緑金色に輝やいて、午後はもう早くありません。一人の白い装をした淑女が、だれもつれず、こまかい砂利をしきつめた道にわが影だけを従えてゆるやかに歩いてゆきます。ゆく手は庭園の一隅で、こちらから見たところ糸杉がきっちり刈りこまれ夏の大気に芳しく繁っているば
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