た音楽の伴奏で朗読されるべきものだとか、その位の音楽を作りたいものだとか云って、これもやっぱりなかなか私にとっての清涼剤です。夜眠らなくて、とんだ時にマッチをすり、人を起したりして、そう云うスエ子は本当にいやだけれど、この癇癪の種が案外な処で薬用と変じるので、なかなか扱いは微妙を極めます。まして況んや万年筆を手に取らせなければならない仕儀に至っては。
泰子の病気のためアアチャンが疲れて何年もないことに、温泉に行きたがっています。伊東辺を御存知? 私は知りませんが、この頃は大抵の処が軍人さんのための療養所となり、鵠沼辺では普段人の住んでいない別荘をどんどん徴用しているそうです。開成山の奥に兵営が出来、家の前の池の辺で伏せ、撃て、とやっているのを、太郎達は一日付いてまわっているらしい様子です。それは去年のことでしたが。私が何処に行くかと云うこともそんなこんなで軽率に決まらず、山のなかの温泉の静かな処を探し出さなければなりません。そして野菜の食べられる処をね。スエ子はろくに青い葉っぱを食べられなかったのよ。
弘文堂から原著者は判りませんが除村吉太郎訳で『ロシア年代記』と云う中世の歴史が出
前へ
次へ
全440ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング