では手勝手がわるいが背中のところパタパタ風を入れて、すぐそこへ臥ると、いくらか涼しい気がいたします。夏のかけものは、もしかしたらそんな綿の入ったのでなく、タオルのようなものがいいかもしれませんね、シーツいかがでしょう。大丈夫? シーツはどこでも恐慌で、大やりくりよ、あなたのおつかいになって、一部分のぬけたのをつぎ合わし、お下り頂戴しています。なかなかよく眠れて結構です。
 夜具は地がきれたのに、綿はきれず、十年前のいい綿は本当に綿らしいと感服しました。いつだってあなたの夜具は、膝をお立てになるところが綿切れして閉口していたのですものね。それに、あれにはどっさりあなたの運針のお手際があって、解くのも面白く、ひとりで二階の畳廊下で、青桐の風をうけながら折々笑いました。なんてがん丈に、とめてあるでしょう。まるで、ここを止めようと思う、と糸が自分で云って縫っているようよ。そして、唐子《カラコ》の頭のようにこぶこぶだらけで何と愛嬌があるでしょう。ピョコン、ピョコンとこぶたこがあって、僅かのところがギリギリからげてあると、お気の毒と感じるばかりですけれども、この位連続してお手際が見えると、いろいろ
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