せ」に傍点]、出来ている、あれとこれとのとり合わせ、つまり趣味というところで止っているのですものね。そして其は金で買えるものに多くつきています。
私がここに暮して、段々馴れて、女の人たちが、自分を出して来て、それで痛感するのよ。素質の悪くなさなどというものは、何と其自体ではたよりのないものでしょう。日常の弛緩した生活は、目にも止らぬ、而も最も本質的なところをドンドン歳月とともに蚕食してして[#「して」に「ママ」の注記]ゆくものなのね。若かったときの無邪気なよさ、善良さなどというものは、年を重ね、知らないことは知らないままに止って、つまり無智なまま、そこの生活にある癖に沿って厚かましさや口先だけや無関心を加えて行くのね、あなたが、折にふれてはあきず反覆して、素質はそれを展開させる努力のいることを書いて下すったわけだと思います。実にそれを思います。素質の浪費ということは音を立てないから日常心づかないが、もし其がプロペラアのような響を立てて警告してくれるものなら、目も口もあいていられぬという状態でしょうね。人は何と自然の生きもの、謂わばけものでしょう、自分の一生が二度とないという、こんない
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