で物事を判断したり評価したりしているところがなく、全くものごとの正当さと私という人間の正常な成長のためだけにものを云っていて下さるということ。それはあのとき私を深く、新しく動かしたと同時に、何か根源的に一層私はあなたがわかり自分たちというものがわかり、自分が分ったのです。まじり気のない人間関係というものが沁々とわかり、これまで分っていたことは、まだ皮相であったと考えるようになりました。そして私の心には、つきないよろこびと、理性に立つ従順といよいよ大きく深い信頼とがもたらされました。私たちの実質はこうして一段と純化され、そのものらしさに近づいたのでした。
いろいろこの味いつきぬいきさつを考えてね、私は自分があっこおばちゃんとして、太郎にどんな信頼を与えているだろうかと反省したのです。あの時分から私は人間関係の窮局の土台は最も強固なものは、よろこばしいものは信頼であるということを痛感していたので。
子供は謂わば道徳以前で、生物的な意味で自分本位ですから、只禁止の表現で何か云われても積極なよろこびで理解出来ないのね。それで安直に大人は甘やかしてしまって敗北の旗をあげるのでしょう。私はその
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