境遇というものから脱すことは出来ず、その改善のために腐心するのですが、そればかりで人生の意味はつきていないということを考えさせる点で深い意味をもっていると思いました。よく境遇にうち克って云々というとき、何か常識ではその悪条件を廃除しきったようにうけとるけれど、現実にはそうではないのね。決してそんな生やさしいものではなく、雄々しい狼のように一つの足にはワナを引きずっても行こうとした地点へ行ったということなのね。シートンの「動物記」にロボーというメキシコの荒野の狼王の観察があります。すごく智慧が発達していて、どんな毒薬もワナもロボーをとらえません。が、シートンが見ると、いつもロボーの大きい足跡よりちょいと前へ出ている小チャナ足あとがあって、それが妻のブランカだとわかるの。白をブランカというのね、純白の非常に美しい牝で、牡狼ならロボーが命令を守らないとかみころすのに、ブランカには寛大です。
シートンは、そのブランカを先ずひっかけました。ロボーの慟哭の声が夜の野にひびきわたります。ロボーはブランカを可愛がっていたのよ。シートンの動物の知慧も私から見れば憎らしい。ブランカの体をひきずってワナに
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