につぶせないからしがみつく、そうとばかりでない執着もあるわけです。
 これからもいろいろの場合、あしからず御承知下さい、と手紙の文句なら書くようなことが屡※[#二の字点、1−2−22]あろうと思います。そういう場合、いつもあながち最少抵抗線を辿る心持からだけ出発しているわけでもないということがわかっていただけて、私は一層平静に、従って落付いて考え乍らやってゆけるというわけになり、そのためにすこやかさを喪わないですみ、展望を失わないですみ、重吉の千石船たるを失わない結果になれると信じます。
 私たちの経済のことで、春の終りに長い手紙さしあげたことがありました。あれは全く私に一つの基本的なことを学ばせました。私たちの生活のやりかたについて。あなたが、私の半病人風にせきこんで気を揉んだ処理報告に対して、自然な疑問をはっきり出して下さったので、私はこまかに何年も前のいきさつを思い出し、整理し、そして、自分が、あの頃はあなたの言葉に必要以上おどろいたり怯じたり絶対にうけとったりして、その為に現実のいりくんだ半面だけであなたに対し、あなたと自分とを迷惑させたとよくのみこめました。もう二度とああいう
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