。頭が熟したぐみ[#「ぐみ」に傍点]の果のように充血して重く変にぼってり軟くなった感じで。これは私を悲しませます。相当に悄気させます。少年の皮膚のようにしまって艷があって、きめのこまかい感じが忘られず、いつそう戻るか、あるいはもうそうはならないのか。そう思うの。悄気て悲しい心持でそう思うけれども、又こうも気をとり直します。私のそういう生理的な丈夫さは、或は私をこれ迄能才者という範囲に止めていたかもしれないと。生来の明るい迅さで或は物ごとの表面のありようをすばやくつかみ理解したという特徴を与えていたのかもしれない、と。今私はぐみ[#「ぐみ」に傍点]の頭になって、時々は苦しく、そのくるしさが悲しいというようなのは、ちっとも自分の生来のものの活動を我知らずたのしむ、或はそれにひきずられるということではないから却ってのろく、じっくりと物事を追って眺めて、心情的になって或は芸術家としてはやはりプラスなのかもしれない、と。私がもしかりにいつか癒って又つやのいい頭になれたとして、ぐみ[#「ぐみ」に傍点]の頭になったこと、その時季、それを私は徒費しまいと思って居ります。
大きい石を磨くには巨大な研石
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