盤まで掘りぬく力は、まともさのみであり、それによって信頼が貫かれたとき、泉は何とつきず美しく湧き出すでしょう。しかもその深い深いところから湧く水の音はしずかで下ゆく流れであって、怠惰によって水口をふさいでしまえば、水は抵抗せず再び新鮮な機会の来る迄地層のうちにかくれます。
私は自分が命をひろって、生命をとりもどしたとともに、一層生活の真の意味にふれてゆく折ともなっていることに大きい仕合せを認めます。
妻としてもそうよ。私は意気地なしのところもあって、いつも御心配をかけすまないと思いますが、それでも様々の経験にうちこんでゆくだけには、その程度にはいくらかのとりどころもあります。まともなものにこたえるこだまは心のうちにあります。それによって、私が益※[#二の字点、1−2−22]深く感じる信頼こそ生活の柱だと思い、私に対して、私が抱くほど確固としたものをおもちになれないにしろ、やっぱり歩いてゆく姿の、その一つの姿はいつも見ていて下さるのですし。
この頃何かにつけて思っていたことなので。そして年の移るにつれて人間が仕合せと感じることや、その動機が深められ、一層謙遜に評価するようになるのも
前へ
次へ
全440ページ中113ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング