て、これ迄よりもずっと真面目に、厳粛に考えるようになりました。
 私がこうやって病気して仕事も出来なくているとき、少くない人がこれ迄にない親切をつくしてくれます。真実に生活を思いやってくれます。その親切の源はどこにあるでしょう、決して名士好みのファンの心もちでない親切。又ある時期一つ財布で暮したなどということの全くない人たちの親切。何でもない奥さん、おばあさん、友達、その人たちが私にあたたかい思いやりをかけてくれるのは何故だろうか、と。その人たちに私は何を負うているかと。眼がわるいことの気の毒さ、は、私が只ものをかけないよめないということにだけかかってはいないのだと感じます。
 私は謹だ心でそれらの親切と、そのような親切をうける自分の仕合せを考えます。
 それらの心もちは一つのものにまとまって、人間はとどのつまり何によって生きるかということの考えに向い、私の心はそれは信頼であると明瞭に答えます。人としての信頼の深さこそ唯一の仕合わせの源泉ですね。それを、人はめいめい自分の最善の力をつくしてかち得てゆくのです。狡智や張りこの理屈や、そんなものはここまで持たないものです、人間関係の最深の地
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