はもとより一言の相談もしないのよ。力をかりようとしない。そういうのです。
酸鼻という感じがいたします。中学三年になろうとしている男の子、六年の女の子、九州から来ている十九かの娘(はじめの結婚の)その人たちはどんな気がして暮しているでしょう。おばあちゃんは春亡くなっていますし、昔からしたしかった人は一人も出入りしなくなっているし。
何とかして、あるところでとりとめて、立ち直ってくれることを心から願って居ります。私にとって内面的に最も結ばれて暮したことのあるひとですから、おそらく一番ひどくこたえているのではないでしょうか。時間の上での古さでは卯女の父さんたちでしょうが。
人間の生涯の曲折というものはおそろしいと思います、親しい友達に、一言も口を利かせないという気の張り、賢こさのおそろしさを感じます、そして人生はつまり実に正直であると思います。世俗的につくろおうとしても、いざというときは、却ってその世俗の面からくずれて来て。
あなたもわたしのこの尽きない感慨をともにして下さるでしょう。立ち直るようにという願いをともにして下さいましょう。一層一層生活の大切なということを感じます。自分の一生であるが、人間としての一生という意味では、謂わば自分だけのものでない責任があります。自分の努力によって充たされてゆかねばならない人間の一生という刻々に内容をたかめている課題があるわけです。私たち芸術家はその最も人間らしく誇ある課題を充足させるために身をすてている筈です。
全く気ままに生き弱く生き、時代のめぐり合わせ自分の気質に翻弄されてしまうというのは何と悲しいでしょう。それは生きるという名にさえふさわしくありません。
何とも手の下しようがない次第ですから、自分を落付け、衷心からのよい願いをかけつつ、自分の生活をいよいよ慎重にいつくしみ責任をもってやって行くしかありません。
きょうは、大分自分に戻りましたから、どうぞ御安心下さい。
字引(松田衛)は今どこにもありません。古本をさがして見るのですが、在るかどうかのぞみうすです。絶版とのことです、東京、三省、郁文などききましたが。うちにわるい英露があります、お送りしましょうか。十年ばかり前、ナウカであちらのから翻刻した英露があって、それはよかったのですが、買いそこねました、残念ですね。心がけておきますからお待ち下さい。
『時局情
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