え合せ、其はTの求めている程度にやや近いのではないかと感じます。日常性のうるおいになる程度の風流や正義感はTの欲しているものであり、日常の秩序を狂わす程強烈でない趣味として細君が文学的なのもわるくないのが一方の気分のようです。Tは苦労してしっかりしていて、もの分りもよいのは長所ですが、頭が早く、世俗的にもまわります。もしその面を研く結婚をしたら、かなりキメの荒いものになりそうですが、そういうところをNという人のほとぼりのある人柄がつつんで、人生には金と地位以外の目やすのあることを生活の気分としていけたらTのよさも生きそうに思います。
もしあなたが御同意でしたら私はTにこの話をきかしてやり、もし気が向いたら出て来て会って見たりするのもわるくないと思いますが、いかがなお考えでしょうか。これ迄私として可能のありそうな人を知らなかったし一方から云えば、おせっかいをして責任を負うのはいやでした。今だって責任を負わされるのは苦しいが、Tの気持思いやって何か傍観しかねます。S子の実際を身近に見ると同情をいたしますし。兄と妹とは兄が結婚するとむずかしいものよ。だからもし双方よいのなら、と考えるの。全く私たちの柄にないことのようですが、自然にゆくならそれもわるくあるまいとも思います。何もないTは、何もないのを不思議にも思わぬ人のところが楽でしょう。大阪のKは全く虚飾的結婚して、えらいさわぎしたのですから。妹のものまでタンスにつめて行くという風に。
Nという人は背の高いやせぎすの人で髪が白いのが多く見える人です。Tが黒髪つやつや頬は紅というキューピー亭主が趣味なら駄目ですが。それも云ってやって。あなたの御同意をうけたらすこしこまかくきき合わせしらべて見ます。ケイ類などのことも。一郎というのだから総領と思いますが。兄さんのことも普通はキズになってTの話もまとまらず来ていますが、その人なら扱えるでしょう。世話する限度も分ってTとして安心ではないかしら。
全くまだコントンの話ですがどうぞ御意見おきかせ下さい。それによってどちらかにいたしましょう。霧のように消してしまうか、すこしはまとまりそうにしてみるか。ではきょうはこの話だけ。
住むのは横浜の郊外の由です。
十月二十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(封書)〕
十月二十四日
灯のついたところでお目にかかったりすると、
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