のではありませんけれども、久しぶりの夕立で、気が休まるようです。この二三日は蒸しかたが一通りでありませんでした。かなり干上ったところへ雨でいい心持です。開成山の方へも降っているかしら。去年の今夕は、国男の誕生日というので、私がやっとテーブルに向って坐ったが二くちほどでへばって臥てやしなって貰いました。
八月十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(八千代橋畔の秋色〈箱根〉の写真絵はがき)〕
八月十二日、今夜は何と涼しく、体が楽でしょう。七十八度よ。雨にぬれた屋根の瓦に、月がさして居ります。もうこんな夜も折々はあるようになったのね。立秋ということにはやはりたしかな季節のしらせがあります、朝顔の花の色が美しく目についてそれも微妙な二つの季節のしるしのようです。
八月十三日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(江の島の写真絵はがき)〕
八月十三日、きょうはほんとに、ほんとに愕《おどろ》いて、安心したら骨が抜けたようになりました。お話のようにとりはからいます。ねまきお送りいたします、とりすてになってかまわない分です。
手拭も一本お送りします、スフ交りのですが。暑いところじっと臥ていらっしゃるのは御苦労さまですが、どうぞどうぞ大事にして、無理な動きかたをして出血したり絶対になさらないで下さい。近く又参ります。
八月十四日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(鎌倉長谷観音の写真絵はがき)〕
ねまきのこと。いろいろひっぱり出して思案いたしましたが、つまるところこの間うち着て臥ていらしった白地に格子縞のねまき、あれは二分ほどスフで、あれを召して下さい。スフも三十点で、点がおしくて新しいのは、という意見です。あれならばマア辛棒してよいと思います、古くても縫い直してちゃんとなりますし、絹はねまきには着心地わるいし。お手数でしょうがどうぞそのように。
八月十七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(日光五重塔の絵はがき)〕
八月十七日、お話の薬、ともかく買うことにして、〓味とヨードと一つずつ買えました。今薬がむずかしくて、一方ときめると買えない時が多いので、どちらでもよいことにしてあると便利と思います。武田長兵衛の薬よ。今低血圧が多いが、大丈夫でしょうか。普通におありでしょうか。年に90[#「90」は縦中横]足した位。血圧のことと血液型のこと。私はAで
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