ますね。あんなに細かに手紙やっておいたのに、ペンが使いに行ったらそのときになって二階をチョイトゴソゴソやって云うには、何しろ古いものだから分りかねる、受とりを見せてくれれば見つけるが、という次第です。速達を出して、私が病気のため受取り仕舞いなくして困却して居るから万々よろしくと折入ってたのんであるのに、いいかげんによんで、面倒くさがって、それでも三百代言的ポイントをつかまえて使を追い返すなんて、ね。
やっぱり蔵の鍵が見つからないから、のくちね。しかし閉口します、そして、腹が立ち、何一つ役にたたないのにと思ってしまいます。職業上の義務として、そんなこと位わかるようにするだけの骨折りもいとうとは困ったものです。お使いに、森長さんからもお話がありましたが云々と云っていたそうです。どうしても私はあれをさがし出さなくてはならないことになりました。どうぞ暫くおまち下さい。そして、これからは謄写屋から来たらすぐお送りしてしまわなくては駄目ですね。これからは、代金支払ったら受取りをみんな森長さんのところへ届けておきましょう。そしたら、あの人は事務的だから、後から調べるとき有用につかうでしょう。こちらが病気だって留守だって、盆や暮には礼儀をつくしているのに、こんなとき不誠意だと、商売道から云ったって下の部と思うわね。あわれ、あわれ、受取書よ、どこからか出て来い。めをつぶり手をたたき、三遍まわるそのうちに、受取書よ、出て来い。(と行くと幸なのだけれど)
今頃岩本のおばさまは孫さんと並んで歌舞伎見物でしょう。暑くないから幸でした。多分水曜日ごろ、田舎へのおみやげをもって北沢へ行きます。おくさん、上の娘、下の娘、男の子、父さんだって一寸何かあればうれしいでしょう。この頃はおみやげ本当に苦心よ。女の身のまわりのものは点数ですし。下駄でもあげようと考えて居ります。男の子へはオモチャ。おばあさん御自身にだって東京みやげがほしいでしょう。何しろあのお年で、元気とは云ってももう二度三度出ていらっしゃれるかどうか分らないのですから。歌舞伎の切符はこの頃四円に四円四十銭から税がつきます、一枚九[#「九」に「ママ」の注記]円四十銭よ。大したものです。食事を一寸すると、五円が晩の定額だけれど、税で七円位にすぐなります。山崎のおじさまが御上京のときはもっとお弱りだったし暑かったし、私は林町へ引越しさわぎの
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