林町より(代筆 セザンヌ筆「花」の絵はがき)〕

 大変に色が悪くて説明書の効能が発揮されませんね。今日は割合のんきな日で満開の山茶花の花を、二階からながめたりします。咲枝さんは正に今にも、というところで、うち中待機の姿勢です。なかなかの緊張ぶりです。
 お正月になったらと楽しみなことがあります。それはまた自分で手紙をかいてもいいという許しを自分に出そうと思って。今度はどんな字を書くでしょう。少しは小さくなるかしらん。橘の本はありました。前進座が火事で焼けました。実に可哀想です、あの骨折を思えば。大東亜文学者大会というのがあります。村岡花子が日本の女流作家だそうです。

 十一月八日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 ボナール筆「桃」の絵はがき)〕

 今日は嬉しいことがあります。オリザビトンが五つ程みつかりました。今そちらにいくつかあるでしょうから、これですくなくとも一月までは持ちますね。早速二つお送り致します。ああちゃんはまだパンクしないで、はたをハラハラさせて居ります。もっとものびただけのことはあって、オリザビトンもそのお蔭よ。つまり余程前に私の居ない時、買ってあったのを
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