た時節の明るさ、冬のやわらかい陽の明るさ、が雰囲気によく出ていて、傍に插した山茶花《さざんか》の花とよく似合います。この次もう一枚出来たらお送りします。山茶花といえば大抵ほんのり花びらが赤いものですが、真白い山茶花が咲いていた小さい庭を覚えていらっしゃるでしょうか。
 パリといえば緑郎から昨日八ヵ月かかって手紙が来ました。フランス語でない切手がはられて、二つのセンサーを通って。結婚の話が要件で、あちらで知った日本の娘さんで声楽を勉強している人、カネボウの重役とかの娘で、小さい写真が入っていますが、ちっ共悪くパッとしたとこのない、やっぱりどてらの苦労もしそうな人で、皆いい点をつけました。娘さんの方では、何かの便利でもっと早く親へ手紙を書いていて、お母さんが咲枝に会いに見えました。声楽と言ってもJ学園から始め留学させられていたので、本当の芸術家ではなくてそれは体の形にも現われています。あすこは金持の少し才能のある娘を親ぐるみでおだてて、あっちこっちへ留学させ、とどのつまりは学校のスターを作る流儀だから、始めはそれで行って苦労している内に、幾分かそのわくからはみ出たのでしょう。緑郎も三十で相
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