島田へ送った『栄養読本』のことは、今葉書で聞き合せました。十二日にはきっと着いていたと思いますが、いつぞやのお手紙にあった通り病気にならない人達は、「ハハアこんな本が来たわい、友子さん読んでおおき」「ハイ」という位のことで、それがどんな大きい意味を含んでいるかなどということは、あまり頓着しないのでしょう。人間の健全さと愚さとが、こういう場合にも私たちの生活にない合されていて、面白いものです。私だって丈夫ならやっぱりその口ですから。
 小説の技術のことは、大変興味ある問題で、芥川龍之介はスタイルが文学を古典として残すか否かに決定的な力を持っていると言ったとか言って、野上彌生子さんは専らスタイルの完成を心がけられるようです。このことはもっとどっさりのおしゃべりを誘い出しますが、三枚以上続けるなんていうことは、あんまりこわいから。これでおやめ、改めてまた。

 九月二十日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 田辺至筆「秋の戦場ヶ原」(一)[#「(一)」は縦中横]と有島生馬筆「霧嶋連山遠望」(二)[#「(二)」は縦中横]の絵はがき)〕

 (一)[#「(一)」は縦中横]二十日。ヨード・
前へ 次へ
全137ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング