り上流で、外から尊く飾りたてられている女性や全く無教養な下層の人にない面白さがあると云っている処も女の実際にふれていて面白く思えました。もっともこの人の中流と云うのは、大伴家持がそうであったように国守程度を指しているらしいけれども。清少とこの人との面白さの対比は、つき進んで見てゆくと、これまで面白がられていた以上に面白いらしく考えられます。この時代のずっと末になると藤原氏の力も衰え、女流文学もしたがって衰えて、たまに書いている人は、作品も貧弱だし、書くと云うことに対しての意識が変に外見的なものになって気に食いません。それに就ては、またこの次。
 ついこんなに長くなってしまって、私はもうヘトヘトです。これだけ書く間に、一くぎり言っては「ね」とつける、その「ね」の数は幾百ぞ、です。スエコも疲れてきて、頭が痒くなりました。ではこれで一息ね。さようなら。

「紙って書けないもんだな」とスエコも歎声を発しています。

 八月三十一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 吉田博筆「剣山」の絵はがき)〕

 三十一日
 本郷の方へ出掛ける人に頼んで思いがけず『結核』がみつけられました。早速お送
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