の目も合わさず私を生かそうと努力しつづけた人々のお蔭で、命が保たれて、今日、自覚した生活へつなぎ続けられていると云うのは、何と不思議な気持がすることでしょう。自分の知らない自分のことが、人から話されることで、初めて自分の生活の物となる、と云うことも何と奇妙でしょう。心理学的に、色々と面白いことがあります。例えば、私が、暑くなると夢中で団扇を使ったと聞いていて、それは団扇を手に持ってはいたのだろうと思っていた処、団扇はとても持つどころか、空手《からて》を団扇を持った形にして、あおいで、時には、ぐるりで皆があおいでいる、その風の動きと合ったリズムで無意識にあおぐ真似をしていたのだそうです。反射神経が、そう云う風に生きつづけ、今のように、精神の作用がある程度まで、戻ると、植物的神経などと云うものが、蒙った損害からいつ迄も恢復出来ないで居ると云うような生理のいきさつは、とても自分でも驚きます。
 昨日、みんなでハァハァと笑ったことですが、あなたは愛妻の身の上にそんなとんでもないことが起ると云う虫の知らせをお感じになりましたか? 昔小さかった時「虫が泣かすんじゃあ」と泣いた人は、成長して、虫は余
前へ 次へ
全137ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング