と思うけれども、それを頼んではあんまり勝手でしょうか。明日は寿江子がお目にかかれるだろうから、そちらの御意見を伺って、てっちゃんの都合がつくなら、旅費を出して行っていただきたいと思います。本当に小包みさえ早くつくならば。
こんな心配をして、お七夜さわぎをして、夜番をするのだからアッコオバチャンだって気もたつわ。無理ないでしょう? おまけにね、どてらの心配もあるのよ。辞書をひくなんというやさしいことではなくて田中さんという浅草の女の人がいつになったら我が御亭主の為にポンポコどてらを縫い上げてくるかという心配。何しろ、東京の人はこれまで袷で冬を越しているから綿入着物が珍らしく、縫う人はゴテてそれが恥かしくもない顔をしているから毎年私は恐慌をきたしています、九月から頼んで十一月一杯というのが今日もう三日でしょう、ですものね。
あなたの十分の一の正確さをそういう人達が持っていてくれたらあなたもどんなに楽でしょう、(何だか吹きだすわね)
達治さんが去年六月に応召の時は面会が出来なくなりましたが、今度はどうかしら。あんまり多勢動く時はそうなるのですが。
自分で行けないのは何て歯がゆいでしょう。隆治さんについてはあなたの日頃のお心持もよくわかっているから、私も心をくだきます、どうぞ無事でまた会えるように。お母さんも隆治さんの体の丈夫なことだけを頼りのようにお書きでした。
私の体は二十四日以来可成りの無理があったから、随分気をつけてマッサージもまた始め、昼間よくねるようにしておりますから御心配下さいますな、何といっても体の大きい五つの子供をだくのは骨よ、体中にしまりのない子なのだから重さは非常なもので、皆、可愛がりながらヘコたれます。毛足袋、かかとが少しゴロつくかしら。風邪をお大切に。
十二月七日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
金曜日には久し振りで寿江子さんがお目にかかり、元気そうにしていらしたというので安心しました。
それに隆治さんのことについても指図していただいて有難う。今日(七日)光町と隆治さんと両方から便りがあって、私の速達や薬だけは間に合ったようですからいくらか安心です。たびたび電報して七日に面会にいらっしゃることがわかり、二度目の速達で南方帰りの人の注意してくれたものを申しあげておきましたから、こちらからの小包は七日に間に合わないが、品物だけ揃えて渡すようにお願いしました。こっちも大さわぎで、磁石を探したりウィスキーをみつけたりしましたが、それは又いくらでも用にたつ道がありますから。
隆治さんの手紙は相変らずあっさりしているけれど、今度は自分でも考えることもあるとみえて、島田のみんなが元気なので安心したということや、顕兄様のことを何卒よろしくとくり返し書かれていて、読む方はおのずから感じることも深う御座います。あとから隊宛に品物を送ることが出来れば、もうしめたもので、それが出来る時は私がやっきになって持たせてやりたいとあせったものも不用となって目出たし目出たしのわけです。忍耐強い子だから根が切れてどうこうということはありませんが、人間の貴重で精緻な体をふっ飛ばす暴力はやり切れません。
うちでは三日夜寿江子が帰り、五日午後咲枝が腕に赤ん坊を抱いて、湯上りのような顔をして帰宅しました。これで一家の顔が揃い、私は病人に戻ってよいわけですが、泰子を誰がひき受けるかということもきまらず、女中の一人が兄貴にけんかをふっかけさせて引き上げるという次第で、口の先では病人に戻ることを我れも人もやかましく言っているけれど、なかなかです。しかし眼のためだけ考えても、私は度胸をすえて、この疲れを休めなければなりません。今日中には看護婦が来るそうだから、赤ん坊の方だけは一かたつくでしょう。この頃はどこもかしこも修羅場で、多賀ちゃんの手紙に「静かな陽なたでゆっくり静養していらっしゃるでしょう」とあって、大笑いになりました。こうして悪い条件に速力を鈍らされながら荷物をひっ張るようにいくらかずつよくなってゆくのが実際なのでしょう。人手が揃って静かに陽なたぼっこが出来るような全体の世の中なら、言ってみれば私も半盲になるような途方もないことはあり得ないわけで、一事が万事ね。しかしあんまり閉口だから、二月にでもなったら、伊豆の伊東に安い宿屋を聞いたから(ペンさん曰く、「来年になったら上っちゃいそうだ」とのこと)ゆっくり温泉に入りに出かけたいと思います。私の心配するのは眼のことだけよ。こういう風にのそのそしている内に、視神経が萎縮を起したら大変だと思います。もしかしたら年内にもう一遍眼底をみてもらうかも知れません。本は本屋から着きましたろうか。
毛布のことわかりました。毛布とどてらと一緒にお送りしたいものだと思っています
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