いて、明日まで返事が書けないなといささか悲観していたらば、ペンさんが私の薬の処方を忘れたのを取りに寄ってくれて、思いがけなく直ぐ書けることになりました。この紫紺色の小さい上衣をきた若い人は薬の証明書を「ある?」と言って食堂へ入ってきました。私は起きてお昼を食べようとしていたところで、寿江子は私の向い側にとぐろをまいて居り、太郎は庭へゴザを敷き板を並べ、ままごとをして、一人で其処で御飯を食べていました。ああちゃんはお産の先生行き。そういうところへ入ってきたのですが、こんな可笑しい言い間違いに今日の市民生活の全面が実にまざまざとうつっていてどんなに色んな証明書がいるかということが現れています。十年前に『クロコディール』鰐という漫画雑誌が出ているところがあって、何でもかんでも証明書、証明書というのをからかった絵がどっさり出ていたものでした。
 そちらのお薬のこと。お送りすれば受取れるような手順がつきましたろうか?「強力メタボリン」は一日に凡そ八粒、それで四ミリになり、必要量だそうです。それから「レドクソン」は六粒で三ミリでいいそうです。「レドクソン」は二百五十粒が二十五円で凡そ四十日持つでしょう。受取れるようにおなりになったらお送りしたいと思いますから教えて下さいまし、勿論錠剤です。
 用事のことがユーモア調だったということはわかっているのよ。あなたの方はその調子でやっていて下さるから助かるけれども、毎日の中では私がその調子を保つことがむずかしくて中々の修養がいるという次第です。多賀ちゃんのことは、割合都合よく運ぶようですからもう少し様子をみて、それから先のことを相談しようと思って居ります。母子で一緒に行ってやろうかと言ってくれる人も人としてはこの上ないのですが、周囲の事情があって無理が通らないので断念する方が双方の為らしくなってきました。そうすれば半年後でも多賀ちゃんに来られた方が助かりますが、まだ今の状態では多賀ちゃんに国府津のことは話してありません。どうぞそのおつもりで。
 栄養剤は私も「ビタス」と「レバー」をのんでいます。昨日バイエルのAというのを(油状)もらってそれを牛乳に浮かして一日に十滴のみます。眼の為に先生が下さいました。注射は十月一杯続ける予定です。今日は十月一日でどっさり若い人達が入営しました。従兄達で学校を出て五日目に入営したものが三人います。隆治さ
前へ 次へ
全69ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング