までは残念ながら遠うございます。腕や首すじの変に張ったところも追々治ってきました。パンパンにならないでもパッチリすれば結構でしょう? 口の方はあくびをかみ殺した時のような感じで面白い経験ですが少し改まると大分ぎごちなさがひどくなって(在留二十五年の日本語の上手なドイツ人の日本語)とお医者がうまく形容したような工合になります、発音しにくくなるのを、はっきり言おうとして耳にそう聞えるのでしょうし、こちらの疲れ方はひどいものです、ですからお客は生理的に御免をこうむりたく、今度ばかりはお客好きの私も願い下げです。御心配下さることもいらない程です。あなたのお薬のことは(日本ロッシュ)の方は月曜に調べてお知らせ致します。国府津は一応注射が一区切になって少くとも私の足が駅の段々をのそのそでも動けるようにでもならなければ、ガソリンなしの此頃行かれますまい。一緒に行ってくれる人のことは、私があんまり途方に暮れているものだから、この字の人が気の毒がって母さんと来てくれてもよさそうな話しが始まっていて、それなら私は実に助かるし気持も楽だし、仕合せですが然し、ここの人は性癖が強いから軽率にして折角の友達を不快にさせるのも切ないし、色々考えて相談中ですが、おそらくそういうことになりましょう。経済上の問題も、どうやら私達は私達で、自主的に一年位はやって行ける工夫をつけましたから重荷の一つは片附けたわけです、もう後は一日も早く丈夫になってゆくことで、私はどんなにその為に一生懸命な気持か申すまでもありません、そしてその為には色々気紛れなことで外から私の安静が乱される条件から離れたい気持が痛切です。頼りにされるのもいいけれどビタミンの様にA・B・Cの人がA・B・Cの訴えを持って来てくれるのは今の私の頭には少し荷がすぎる時もありますから。(これは内証よ)
島田の方はいつもちゃんと上島田と書いていますし、野原の方は西野原と書かずただ野原と書いていましたが、こちらの方はずっと着いていたようです、碌に書いたとも思わないのに、もうこんなになったから大急ぎで退却致しましょう。新聞が朝日その他月曜は二頁きりだったのが今度からは毎月二十五日定休日が出来るそうです。今夜はむし暑くなりましたから風邪お大事に。
十月一日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 駒込林町より(代筆 封書)〕
十月一日
二十九日附のお手紙が今朝着
前へ
次へ
全69ページ中27ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング