下さい。大変見馴れないでしょう。自分にも良くなれる事の出来ない自分です。)
 下手な読手は、変にぼってりとした自分の肉付けを文章のまわりにくっつけるので、意味が解りにくいばかりか、文章の味などと云うものが全く消えます。もし長く見えないと、私にとって読手と云う者が書手同様必要ですが(スエコ曰く「オオコワイ」)その人の選択と云うものは、性質の良さの他に、そう云う特別な要求点があるわけですから、なかなか見付けるのに困難しましょう。口述の簡単なのでも人の性質によっては、抵抗があってやりにくいものです。何しろ、そうそうスエコを乱用も出来ませんから。既に御らんの通り、オオコワイと云われてみればね。
「インディラへの手紙」の著者は、また現代史を書きつづけるような生活ぶりらしい様子ですが、彼の国の今日の歴史は実に紛糾していて、沢山の犠牲が行われている模様です。なかなか現代史のページは、立体的ですから。過去の歴史のどの時代にも無い内容です。
「シンプル」は、十九世紀始めのイギリス海軍が、どんなに野蛮で粗野な一面を持っていたか、フランスと対抗していたこの時代に、イギリスの軍艦の水夫が、どんな動物的な狩り立てで、強制的に強奪されたかが割合正しい率直さで語られているし、そう云う背景で理解する人には、興味がありますが、さもないといかにも十九世紀の始めらしい流れののろい描写で、退屈するようです。家の先生も上手な読手に拘わらず、むしろペン代用となる方をより興味あることとする傾向があります。(私にはよく見えないけれど、字がだんだん速記的になって来たそうですが、本当?)外交的ヒントと云うものはこう云う形で与えられ、決していきなり「もう手がだるい」とは云わないものと見えますね。(これは内緒話ですが、私はいつか、目をしかと見開いて、何枚書いても速記的にはならない字で、スエコがこっそりのたくらしている現場をつき止めたいものだと思います。)
 ロマン・ロランの「魅せられた魂」は完訳され、一巻と四巻と云う風にとびとびに読みましたが、「ジャン・クリストフ」はお読みになったでしょう? あれとくらべてこのアンネットと云う女主人公をもった長篇は、女である私達には、非常に興味深い観察が促されて、ずっと読んだらば、さぞ面白い感想がまとまるだろうと思います。生活に一貫した自立性を求めて行くアンネットの理性と情緒的な物との見
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