のうちに一筆。
 家の床の間はしゃれていて、小さい穴が一つ有って、そこから夜中には風、朝になれば朝日が差込みます。今夜はそこを塞がなければなりません。目じるしに今は細くさいた原稿紙のはじがメンソラでちょいと付けてあります。

 三月四日 (消印)〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 三月三日  第十二信
 ああ、やっと! やっと! という心持でこの手紙をはじめます。だって、この前私の書いたのは十一日ごろです、そして、風邪で臥てしまって寿江子の代筆で、それから血眼つづきで一日にやっと『新女苑』の小説27[#「27」は縦中横]枚わたして、二日には(きのう、よ)あの氷雨の中を横浜まで出かけ、かえり寿江子のことで国が用があるというからまわって、けさおきぬけに大森の奥さん来で。本当にああ、と云いながらぺたんとあなたの前に坐ったような恰好よ。(寿のことは何でもないの、あとでかきますが。いつぞやのことなどではなく、ピアノ買う買わぬのことよ)
 きょうは、おだやかなお雛さん日和です。うちにも桃の赤白の花と、小さい貝の中に坐っているおひなさんを飾ってあります。私の風邪は大体ましで二十七日ごろから
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