比谷の陶々亭を出ようとしたら雨になっていたので、あらと思い、雨の音を珍しくききながらいい心持で眠りました。すこし風があることね。今は月のない夜ですね。でも雨降りの夜であったことがないのは面白いこと。一遍も雨がふっていたことはこれ迄もありませんですもの。
ゆうべは、さち子さんの姉さんが宮城県から出て来ていて、身の上相談的なことで、かえるのを待っていたものだから、疲れているところを又相手して、おそく湯に入りました。雨の音をききながらお湯に入っていてあっちのうちの風呂場思い出し、夢中のような心持でお湯に入ったことや、ブッテルブロードのことや、こまごまイクラが丸く赤く光っていた様子まで見え、ちょこんとした浴衣の花模様など、大変大変ゆたかな晩でした。
そして、床に入りながら思ったのよ。今年は思いもかけないお歳暮だのお年玉だのを私は頂いたのだけれど、私はあなたに格別いいものもあげられない、と。私だって、どんなにかボンボンをあげたいでしょう。ボンヌボンヌを。私の御秘蔵のボンヌは決してありふれてはいないのだけれど。残念ね。「化粧」というソネット一篇ぐらいしかあげてないのですもの。私も、今年は今年の
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