え、あなたのお年玉の一つとして。雪解けの音はすきです、荷風はうまくかいています、「雪解」という小説で。

 一月十二日 〔巣鴨拘置所の顕治宛 目白より(封書)〕

 一月十一日  第三信
 今この二階へ斜かいに午後の陽が一杯さし込んでいて、家じゅう実にしずかでいい心持。
 お恭は、一時二十分の準急で立つのですが、十二時に家を出てそれでもういくらかおそめです。この頃の汽車は、出発前十分に駅にゆくなどという昔のハイカラーなのりかたは夢で、上野なんか西郷の銅像のあたりまでとぐろをまきました、それは暮だけれど、今日はどうでしたろうか。小さいトランクにふろしき包み一つ。コート着て、赤い中歯の下駄はいて。顔を剃ってかえりました。
 きのう迄寿江子がいて、二階狭いから私はベッド下へ布団しいて臥《ね》て、何だか落付かなかったので、昨夜はいい心持でいい心持で、久しぶりにベッドの中で休まりました。寿江子神経質ね、毛布なんかに虫よけが入れてある、その匂いでゼンソクおこすのよ、ですから戸棚にしまってある布団にはねかされないの。ひどいものでしょう。それにカゼ引いていたし優待してやったの。
 見事なお年玉いただい
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