駄よ。実に大笑いして子供たちのさわぎを見物しました。一ヵ月ちがいの二人の娘たちよ、三つの。全く面白い。ふた子ってやっぱりこんなに面白いのでしょうね。卯女は何でもアクティヴです、康子リードされている、それできっとずっと仲よしでしょう。
 きょうは一日ゆっくりうちにいて、中公の本の序文のかき直ししたり小説をこねたり。いい日曜よ。
 本の目次はざっと次のようです。
 一 藪の鶯(明治二十年代(一八八七年―)の社会と婦人の文化)
 二 清風徐ろに吹き来つて(樋口一葉)
 三 短い翼(明治三十年代(一八九七)と明星)
 四 入り乱れた羽搏き(明治四十年代(一九〇七)青鞜)
 五 分流(明治末(一九一二)『白樺』前後)
 六 この岸辺には(大正初期(一九一八)新興の文学)
 七 渦潮  同
 八 ひろい飛沫(昭和初頭(一九二七)新世代の動き)
 九 あわせ鏡 (同)平林たい子の現実の見かたのアナーキスティックなものの批評。
 十 転轍(昭和十二年(一九三七)現代文学の転換期)
 十一 人間の像(同)(岡本かの子)
 十二 しかし明日へ
 このような工合です、そして樋口一葉のところはすっかり書き直したから、同じ題で『明日への精神』の中(人の姿)に入っているのとは全くちがいます、枚数の正確なところは不明です、整理してとってしまったところもあるし又こまかく一杯かきこんだところもありして。本文だけ三百枚ほどでしょうね。以内でしょう。それに年表が六十頁ほどついて。これは独特な本になります。個性的に、というよりも歴史的に。対象の扱いかたで。(ああそうそう、広告はおやめ、おやめ!)題もひろい豊富な示唆にとんだものを見つけたいことね。小題はそれぞれふさわしいと思いますけれど。
 二月四日。どうもいい題が思い浮びません。しきりとこねているのに。こんなのを不図思いついたのですがどうかしら。「波瀾ある星霜」――明治大正昭和の婦人の生活とその文学。という傍題をつけて。
 きょうは中川一政へ表紙のことたのむ手紙をかきます。こういう本ですから表紙は柔かみのある白で、表紙の見かえしのところに何かこっくりした画があったら、しゃれているでしょうと思って。
 ああこっちの方がいい。「波瀾ある世代」、ね。こっちの方が動いていて。星霜というのはやや古いし固定していて、人間が主でなくて時間が主になっていてよくありません。「波瀾ある世代」これはいいわ、きめていいでしょう?
 三日のお手紙頂きました。三十日のはいよいよ不着です。どうしたのでしょう。そんなにあなたの手紙の好物なネズミってあるでしょうか。私は気にかかるのよ。もしそちらを出ていないのならそれでいいのですが。
 おかぜいかがでしょう(これは五日の朝かいているところ)今朝の雪は貧相ね。こんな貧相な雪って。まるで地面へ塩をひとつまみこぼしたようでした。大丈夫? しゃんと雨がふればいいのにねえ。そしたらかぜのためにいいのに。
 三省堂の辞典のことはきのうお話ししたとおり。支払表その他謄写料というのは重複した部分だったのでしょうか、お会いして伺ってから。又、ピントがちがったのをゴタゴタ書くといけないから。
 私のかぜは追々にましです。この間うち顔がすっかりあれて、ピシピシと顔の皮がむけて、夜などかゆくてこまりました。もうそれも大丈夫。ヴィタミン半年はあなたらしいと笑えました。そんなに私の方はヴィタミンを気にしないでもいいでしょう、そちらよりは食物からとれますから、まだ。しかし来月からお米は配給で、本当に寿江子だって袋へお米いれて来なくてはならないわ、もしうちでたべたいなら。一人分一日三度お米は食べられないのです。これ迄日本人は米をたべすぎて胃カク張になったり脚気になったり頭脳鈍重になったりしていたという人もあるけれど、それはほかにもっと優良な食物があっての上の話でね。パンにチーズをつけてたべられる人々の生活からの話です。お魚のひどさ話のほか。菓子屋のガラス棚は全くカラで、この頃は菓子の中村屋で佃煮とのりを売って居ります。千円札が出るというような巷の噂が新聞に出ていましたが、それはおやめになったそうです。
 ヴィタミンのほかの利く薬は、この頃服用法が段々のみこめて来て、オヴラートのつつみかたうまくなり気のもめることがへりました。ですからきっと益※[#二の字点、1−2−22]効果は良好でしょうと思います。
「花の叫び」の詩話。あったかくてよく合った手袋の童話。どれもやっぱり面白いことね。
 文学における大陸性のこと、又チャイコフスキーのこと。これについて云われていることをくりかえしよみ、こういう問題にふれてかく場合には、いつもその一つ一つの文章に必ず土台となる理解のキイは示しておかなければならないものであるということを学びました。ほかの
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